UX DAYS TOKYO 2019レポート「人間は必ずしも合理的に行動するわけではない」 行動経済学ワークショップ

UX DAYS TOKYO 2019レポート「人間は必ずしも合理的に行動するわけではない」 行動経済学ワークショップ

Clock Icon2019.05.07

この記事は公開されてから1年以上経過しています。情報が古い可能性がありますので、ご注意ください。

「日本最大級のUXカンファレンス&ワークショップ」と謳われている「UX DAYS TOKYO 2019」。 そこで行われた「行動経済学(ビヘイビアラル・エコノミックス)の実践方法」ワークショップに参加しました。 講師は、GoogleやSpotifyなど名だたる企業にUXコンサルと教育を行なっているコグロード(Coglode)社のお二人。 やさしい口調の美女ロキシーさんと、ファニーな講義がイケてるジェロームさんです。

所感

平素より大変お世話になっております。
モバイルアプリサービス部デザイナーのナカムラです。

まず、今回参加してよかったことです。

  • 最先端の知識について、深く簡潔に理解を進めることができた。
  • 形骸化または混乱しやすい「行動経済学」がどういう学問かすっきり再整理できた。
  • 時に悪用されがちなこの分野を、倫理的、効果的に活用する方法を学ぶことができた。
  • ツールを使ってチームで共有しながら進める方法を知ることができた。
  • 講師がゆっくり丁寧に話してくれるので通訳さんが要らないぐらい聴きやすかった。そしてちょーかわいい。
  • 語れるお友達ができた。

悪かったことは、会場内が暑かったことです。 室内が参加者の熱気に包まれて室温が上昇していたので、もう少し空間に余裕のあるほうがよかったかなと感じました。 暑いの無理ー(泣)。

UXDT2019サマリー画像

左上)会場は品川インターシティ。空も桜もきれいな日でした。
右上)会場の様子。真摯で活発で、和やかな雰囲気でした。
左下)お昼はお寿司。ちょっとうれしい。
右下)ラストスパート前のおやつタイム。むぎゅっと煮詰まった脳みそに、プリンがやさしく効くのです。

Index

さてさて、そんな感想を持ったワークショップですが、以下の手順で進行しました。

  1. 「行動経済学」概要とカードツール「コグロードナゲット (Coglode Nuggets)」について
  2. 行動経済学のそれぞれの原理を理解しよう
  3. どの原理を使った事例が成功したのか予想しよう
  4. 「不要なプリントアウトを減らしたい!」ナッジを理解しよう
  5. 「ツアーTシャツの購入を促す」コンテンツを考え順位を予想しよう
  6. 「ケリーさんのケーキショップ、もっと売れるには?」原理を組み合わせて問題を解決しよう

ワークショップ詳細

それでは、詳細レポート開始です。

1.「行動経済学」概要とカードツール「コグロードナゲット (Coglode Nuggets)」について

Intro to behavioural science & Nuggets

人間は常に合理的に行動しているのか。いいえ、そうではありません。わたしたちは「認知バイアス」に左右されて行動することが多いのです。社会経済学、社会心理学、認知科学などの学術的裏付けに基づいた設計で、ユーザーのよりよい判断を促していきましょう。UXだけではなく、価格設定、コンバージョン、ブランディングなど様々な分野での応用が可能です。

上のような内容の、軽めの概要講義で始まりました。後のワークショップに備え、復習と再認識ができてよかったです。

続けて、目玉商品「コグロードナゲット (Coglode Nuggets)」の紹介がありました。一枚一枚に行動原理が記されていて、原理の理解、組み合わせての応用などに使います。フルセットはもっとあるのですが、今回は13枚でのワークとなりました。

認知バイアス、行動原理の書かれたナゲット

表に行動原理の概要、裏に例となるデータや詳細が書かれています。

2.行動経済学のそれぞれの原理を理解しよう

Knowledge share

4人で1チームとなって、いよいよワークショップです。わたしたちは3番チームです。 各テーブルに4枚ずつナゲットが配られ、1人1枚を選んで内容を把握し、その後ほかのメンバーに説明していきます。 この方法だと、短時間で話者と聴者両方に定着しますね。大事大事。

3.どの原理を使った事例が成功したのか予想しよう

Even experts aren’t certain.

文言と行動経済学の原理を紐づけています。 実際に自動車の車両税を扱うサイトで使われた「車両税納税者に臓器の提供登録を促す文言/画像」の事例を使って、原理をさらに理解していきます。政府機関に所属する、行動経済学のプロフェッショナル集団であるナッジユニットがパターンを作り、行った検証で、エキスパートでも自身を盲信せず、必ずUXのテストプロセスを設けて実証を行なっている例でもありました。ここでさらに追加されたナゲットを理解しつつ、出されたパターンの中で一番効果のあったものはどれだったのか、原理を常に念頭においてチームで議論した後、答え合わせがありました。残念ながらわたしの予想は外れてしまいました。「プロだからって正しいとは限らない。常に実証が必要である。」シャキッと基本に立ち返るのです。

4.「不要なプリントアウトを減らしたい!」ナッジを理解しよう

Design a nudge to get people to print less!

ナッジを設計し、アイデアをまとめていきます。

ナッジとは「ひじでそっと押す」などが本来の意味で、ユーザーにとってよりよい選択へ導く工夫を、行動経済学の原理を使って行う考え方です。騙すような手法で強引にではなく他の選択肢を提示した上で誘導することが、ナッジにおいてとても大切です。ナゲットが追加され、実際にプリンターの近くに貼るポスターを作っていきました。まず各自がフィーリングで付箋にアイデアを書き出し、チームで原理ごとに分類、ナッジを考え、スケッチに表していきます。

施策を表したポスターをスケッチしました。

我々3番チームのアウトプットはこちら

「フィードバック・ループ=人は自らの行動を明確にしてくれる情報を求めている」原理をメインで採用し、枚数削減の結果を中心に、環境の影響を受けやすいホッキョクグマを配置、「ユーモアの効果」と「画像優位性」の原理を組み合わせています。なかなか可愛らしくて効果のあるものができたかなと(笑)。

5.「ツアーTシャツの購入を促す」
コンテンツを考え順位を予想しよう

“Focus is your friend”, “Start with a feeling”, and “Artfully combine”.

ナッジを6パターン設計します。

「誰向けに」「どう誘導していくのか」、6つのパターンを提出し、さらに効果順位を予想するワークです。前項と同じくナゲットの追加後、6パターンのスケッチを出しました。それから他のチームを回り、よかったものに投票します。

我々3番チームのお題は「AKB48ツアーTシャツのオンライン購入、ライブ会場でのピックアップを促す」です。日本でのワークショップ向けに考えてくれたようでうれしいですね。

効果のある設計は?画像や文言のクリエイティブは?パターンのバリエーションは?など、短い時間でできるだけ多くのアイデアを出し、設計し、スケッチに起こす過程がとてもエキサイティングでした。また、この時間帯になるとタイプキーパー、分類中心、スケッチ中心といった役割分担が自然と出来上がっていて、いいチームビルディングができているなあと温かな気持ちにもなれました。

駆け足でアウトプットが仕上がり、チームで推すことにしたのは下の写真の右上3番です。投票のとき、他の人の意見を見て認知バイアスがかからないようスケッチの下に投票紙を隠して置いていくあたりにも、行動経済学が活かされていてさすが!でした。

6パターンのスケッチが出来上がりました。

それでは、結果はどうだったのでしょうか。自席に戻り、開票します。
当選したのは左下の4番の案でした。またハズレです…。 この結果を受けて、4案最後の「希少性」に訴える文言が効いたのかなと、チームで結論づけました。それと、本物のAKBファンに向けたら価値観も違うだろうし、順位は違っていたかもしれないとも。

このプロセスでは、「ナッジ」「効果予測」「実証」「振り返り」を体験することができました。

6.「ケリーさんのケーキショップ、もっと売れるには?」
原理を組み合わせて問題を解決しよう

To behaviourally-optimise Kelly’s Cupcake stall

おやつのプリンを食べたら、今日得た知識をフル稼働させてラストスパートです。とうとう全ナゲットが解放されました。 あまりたくさんのナゲットを使うと、かえってはっきりしないアウトプットができてしまうため、多くても3つぐらいに絞って考えていくのが肝要です。

お題は「ケリーさんのお店をリデザインする」。屋台のような小さなお店で1人の女性がカップケーキを売るイラストが提示されました。

腕のいい焼き菓子職人のケリーさん、1ポンド均一のカップケーキショップを開いたのにちっとも売れません。どうして売れないのでしょうか。どうしたら売れるのでしょうか。商品を変えても、価格を変えても、ケリーさんの服装を変えてもかまいません(ここで「でも服は着せてあげてね!」とジェロームさん。haha!)。3つのナゲットを選び、お店をリデザインしてください。

早速問題点を抽出していきます。選ぶ楽しみが少ないのではないか、ほかのアピール方法があるのではないか、説明が足りないのではないか、といった具合です。問題点の議論が済んだら、今度はナゲット群を眺めながら施策を考えます。施策のまとまったところからスケッチしていったのですが、その間も思いついたアイデアをその場で話し合い、追加、修正しながらの作業でした。

そして3番チームのリデザイン案が出来上がりました。じゃーん。
ほかのチームの人たちにプレゼンします。

ナッジとスケッチです。原理に当てはまるナゲットを添えてあります。

店名・コンセプト
「Kelly’s〜小さなごほうび〜」

ストーリー
ケリーさんが幼い頃、いいことをするとお母さんがごほうびに小さなカップケーキを焼いてくれました。ケリーさんはそれがとてもうれしくて、いいことをすると、がんばったことがあると、お母さんに報告してケーキを作ってもらっていたのです。ケリーさんのカップケーキはお母さんとのやさしい記憶の味なのです。同じ幸せをみんなにも届けたい。ケリーさんはそんな想いでこのお店を作りました。

追加施策
サンプリング「あなたのいいこと教えてください。プチギフト差し上げます。」→幼い頃の思い出や今のエピソードを話すとプチギフトがもらえる、商品の追加

使用ナゲット
「ストーリーが与える先入観」、「ノスタルジー効果」、「レシプロシティ」(ストーリーにノスタルジーを含むため、商品ラインに限定品を加え「希少性」も少し足しました。)

ノスタルジーを喚起するストーリーを設け、さらにストーリーに関連付けたサンプリングを実施、共感性を上げて購入に結びつけるよう施しました。手書きの看板や、ケリーさんのどこか懐かしいエプロン姿もブランディングに貢献しています。

いかがでしょうか。だいぶすてきなお店になったかと思います。作成中は夢中だったのですが、出来上がったものを見て「ほえー」と我ながら間の抜けた感嘆の声を挙げてしまいました。UXDT公式アカウントのFacebook実況に載って、他の投稿より多めのいいね!をもらえたのもよい思い出です。

まとめ

You are not God but angels!

以上のようなカリキュラムで、濃厚なワークショップを堪能できました。「このワークショップで行動経済学のエキスパートになれるわけではありません。」と、冒頭でロキシーさんの言っていたように、今後も引き続き精進していきたいと強く思いました。また、ワークショップの中で終始、「ゴッド・コンプレックス」について話されていたのが記憶に残っています。デザイナーは時に過剰に正しくあろうとし正しく導こうとする、そして自分が正しいと思い込みユーザーを見失ってしまう、といった趣旨だったかと思います。ジェロームさんがそう言う傍でロキシーさんが、「あなたたちは神ではなく、人々を幸せにする天使なんだよ!あなたも、あなたも!」と体の脇で手のひらを羽ばたかせているのが、ちょーラブリーで胸キュンでした。UXを担う上でとても大切な考え方だと思います。いいサービスをまず作り、それがリリースされたら、使ってハッピーになってくれると自信を持って誘導施策を立てる、というのがUXデザイナーにとって幸せな仕事なんだろうなあと。

また、今回いいアウトプットを出せたのはチームワークもよかったおかげだと思っています。それぞれ違う職業のメンバーだったのですが、自然と役割分担をして取り組めていました。お昼休みにお話したのと、協力してタイムキープできていたので、他のチームがまだ作業している間に少しずつ雑談する時間が取れたのも大きかったように捉えています。雑談してお互いのこと少しでも知るの大事。そこもちょっこり学びになったナイスチームビルディングでした。3番チーム、どうもありがとう!

I enjoyed this workshop a lot! Roxy & Jerome you two made me realize what is important for us UX designers again. I work as an angel from today on :D Thank you sooooo much and see you next time!

終了後は同日に他で参加していたデザイナーとごはんを食べに行きました。
カラカラの脳みそにアルコールが沁み渡る瞬間は最高ですね。

これでレポートは終わりです。
家賃みたいな高額なのに参加させてくれたボスの皆さま、スペシャル感謝しています。
今進行中のプロジェクトでは、幸せなことにリーダー陣がUXに理解や興味を持ってくれていて早速学んだことを活かせていますが、今後はデザイナーだけじゃなく、マーケティングやプロジェクト管理に関わる人々も一緒にUXに取り組んでいければいいなと思いました。はよはよー。

それでは、長々ありがとうございました。
ごきげんよう!

Share this article

facebook logohatena logotwitter logo

© Classmethod, Inc. All rights reserved.